ピアニスト、アンヌ・ケフェレック氏に突撃インタビュー!

(内容が前後しますが、5月4日、18:45~の公演レポートです。)

504-anne1.JPG

 フランスを代表するベテラン・ピアニスト、アンヌ・ケフェレックAnne Queffelec氏によるモーツァルトの「ピアノ・ソナタ全曲シリーズ Part3」を聴いてきました。ホールD7は例にもれず満席です。

プログラムはこちら
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K.330
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第3番 変ロ長調 K.281
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第9番 ニ長調 K.311

504-anne3.JPG504-anne4.JPG

「ごめんなさい、今日はアンコール、ないのよ。」と言うように肩をすくめて・・・
ピアノの蓋をぱたんと閉めて帰っていく氏(写真右に注目!)。チャーミング!


 素晴らしい音楽に居ても立ってもいられないような気持ちにせかされて楽屋へ向かったところ、ファンの方々も次々といらっしゃり、感想を伝えたりプレゼントを渡されたりしていました。そこで筆者は、「この後サイン会があるから少しだけね。」という氏のお言葉に甘えて、インタビューさせていただきました(でも実際はすごく長い時間を割いてくださったんですよ!)。幸いにも、氏の門下生である矢島智恵子さんがフランス語の通訳を引き受けてくださったので、正確で詳しいお話を聞くことができました。以下、その全容です。


-----------------------------------------------------------------


504-anne2.JPGE.M. : 今回は"ピアノ・ソナタ全曲演奏会"ということですが、これにはどんなきっかけがあったのですか?

ケフェレック氏 : モーツァルトのピアノソナタの全曲演奏会は、2003年に有名な音楽祭"ラ・ロック・ダンテロン"で初めて行いました。それは前年、ルネ・マルタン氏が企画して提示してくれたのです。その時、私はソナタを16曲しか弾いていませんでした(もちろん勉強はしましたが、全曲は人前で演奏していませんでした)。マルタン氏の申し出に対し、私は最初『考えさせて』と答えました。ちょっと気狂いじみていると思ったので。でも、断るのはよくない、やってみたほうがいい、と思ったので即座にOKし、一生懸命ソナタの勉強を始めました。この音楽祭はラジオでも実況生中継されるので、全曲演奏することで、『もしかしたら色々と(よくないことを)言われるかも』と怖かったですが、『モーツァルトに対して違う見方、近付き方ができるかも』と思ったのです。それは海の中に沈んで、かき進んでいくようなイメージと言ったら良いでしょうか。『音楽的冒険ができるなら、こんな素晴らしいことはない』と思い、取り組むことにしました。

E.M. : 先生にとってモーツァルトとはどんな存在ですか?

ケフェレック氏 :子どもの頃、私の両親はモーツァルトが好きでよく聴いていたので、私にとって彼は特別な作曲家なのです。これはすごく個人的な意見ですが・・・"ラ・ロック・ダンテロン"音楽祭で弾いたとき、最終回の最後の曲の最後の音を弾き終わったとき、この上もない幸せを感じたのです。「この世に生をうけて良かった!」と。

E.M. : 私もきょう先生の演奏を聴いて、初めの音を聴いた瞬間に本当に幸せを感じ、最後の曲の最後の音が消えて欲しくなかったです。終わってしまうのがとても残念なりませんでした!(←かなり興奮気味に。それを通訳の矢島さんは同様に声のトーンを上げて、フランス語で同じように伝えてくださいました。)

ケフェレック氏 : ありがとう、そんな風に言ってもらえて私も感動しました。モーツァルトの音楽は透明で、悲しさや嬉しさをすべて包み隠さず伝えるのです。燃えさかる熱さを"見せつける"音楽ではありません。リストやラフマニノフのようなピアニスティックで力強いものとは違います。彼の音楽は私自身にとても色々なことを与えてくれるのですが、常に指のコントロールを必要としますし、非常に難しいです。

504-anne5.JPGE.M. : モーツァルトは本当に難しいですよね。先生は、モーツァルトを演奏するとき、”自由”でいらっしゃいますか?

ケフェレック氏 : (「まあ!直球な質問ね。」というような表情で笑って)、私はとても恵まれていて、20歳のときからウィーンでブレンデルやスコダ、デームスといったピアニストたちの下で学ぶことができました。どんなに難しくても、音の中で生きなければいけません。モーツァルトは、どんなに才能のある人にとっても難しいものです。ミュンヘン国際コンクールの審査をしていても(←氏は過去に同コンクールで優勝されています)、才能があることは分かりますが、80人くらい聴いてもモーツァルトを弾く時は、殆どの人が怖がって弾いているように聴こえます。

E.M. : た、確かに・・・そうかもしれません。

ケフェレック氏 : あ、そろそろサイン会に行かないと。

E.M. :ごめんなさい、あと何か一言だけお願いします!

ケフェレック氏 : じゃあ最後にひとつだけ。モーツァルトは人類にとってこの上ない贈り物です。私は、彼の音楽が、生きていく活力になると確信しています。

E.M. : メルシー・ボ・クー!ありがとうございました!

-----------------------------------------------------------------

 氏の音楽と、そのお人柄に感激・感動の嵐だった筆者は、すぐにCDショップで氏の『ヘンデル作品集』を購入(←ジャケット写真の氏と目が合ったんです!)、この記事を推敲している今(5月11日)もその美しい音楽に浸りながら、すっかり夢見心地。
"憧れ"とは、こういうことなのですね。即効ファンになりました。

 ちなみに、このインタビューの後に行われたサイン会でケフェレック氏は、お客様ひとりひとりへ丁寧にサインをして握手をし、そしてお客様の問いかけには誠実に答えて…と、かなり 長い時間をかけて皆さんとの交流を(すごく疲れている筈なのに!)楽しんでいらっしゃったそうです。以前から日本がとてもお好きで(「日本食」とかだけでなく、日本の方々の優しい所が大好きなの~とよく仰られるとか)、今回とてもハードな企画ながら、その日本で氏にとって特別な存在の作曲家であるモーツァルトのピアノソナタを全曲演奏をする事が出来たのは、先生自身にとって、もしかしたら何か格別の思い入れがあったのかもしれない。。(←そう話してくださったのは、門下生で通訳をしてくださった矢島さん。後日談として伺ったお話です。)

 2005年に引き続いて2度目の「熱狂の日」に登場、多くのファンを魅了し、また、新たなファンも獲得したケフェレック氏。来年もぜひ来てほしいですね!サインをおねだりするときは、質問など用意しておくと答えていただけるかもしれませんよ♪♪
(E.M.)

Tokyo International Forum 東京国際フォーラム