LFJ2024注目の公演

 “オリジン”というテーマは実に幅広い。そこで視点を演奏家に向けるのも一興だろう。
 ナントと異なる今年の東京の大きな特徴はオーケストラの充実だ。東京フィルと群馬響が初登場し、神奈川フィルや新日本フィルも加わるので、首都圏のメジャー級楽団の演奏を複数楽しめるし、兵庫芸術文化センター管、横浜シンフォニエッタ、東京21世紀管や吹奏楽のシエナ・ウインド・オーケストラも参加するなど、バラエティに富んでいる。初登場のクリスティアン・アルミンクなどの著名指揮者や俊才スター・ソリストも揃っているので、オーケストラ公演だけでも多彩なオリジンを体感できる。その中で1つ挙げれば、本年末で引退予定の井上道義が新日本フィルを指揮して日本のオリジン・伊福部昭の作品を聴かせる《ファイナルコンサート》(315)が特注だ。
 もう1つの特徴はジャズの重視。大御所ピアニスト・山下洋輔(326)をはじめトップ級が続々登場するし、ジャズのオリジンであるディキシーを豪華メンバーで堪能できる(123)のも嬉しい。
 筆者がナントで聴いた演奏家では、ベテラン勢が大注目。特にアンヌ・ケフェレックの味わい深いピアノは必聴と言っていい。中でも、モーツァルトの協奏曲第9番「ジュナミ」を披露する公演(313)は、同じくベテラン・ヴァイオリニストのオリヴィエ・シャルリエが弾く協奏交響曲と併せて、天才の傑作群のオリジンを堪能できるイチオシのコンサート。加えて、ケフェレックが行う1685年生まれの3人の作曲家主体のリサイタル(322)、シャルリエが行うラヴェルのジャズ色とエネスクの民族性に着目したリサイタル(232)も意味深い内容だ。
 やはりベテランでは、アブデル・ラーマン・エル=バシャの軽妙にして雄弁なピアノも一聴に値する。雄渾な曲調でジャンルの歴史を変えたベートーヴェンの協奏曲第3番(112)、エルミール弦楽四重奏団と奏でるこの形態のオリジン=シューマンのピアノ五重奏曲(323)で、妙技を満喫したい。
 より若い世代ではナタナエル・グーアンとマリー=アンジュ・グッチの両ピアニストが要注目。二人が揃ってラフマニノフの協奏作品を弾く公演(212)は、同作曲家のアメリカからの影響を知る意味でも興味深い。グッチの管弦楽に負けない打鍵と表現力の豊かさは特筆物だし、グーアンが弾く、弦楽四重奏との「世界の創造」(132)、2台ピアノの「春の祭典」(325)、ソロの「展覧会の絵」(135)などの公演を聴けば、国民楽派や記念碑的作品といった様々なオリジンを味わえる。さらには、ロシアの近代作品を並べたグッチのリサイタル(122)、ナントでも輝いた俊才ピアニスト・福間洸太朗のラテン系作品中心のリサイタル(225)にも目を向けたい。
 ヴァイオリンの若手では、ストレートな音と流麗な表現が魅力のリヤ・ペトロヴァが気になる存在。出演公演では、歌に溢れた音楽及び壮大さがロマン派のオリジンとなったベートーヴェンの協奏曲(214)が、東京フィルのバック共々興趣をそそる。
 民族音楽もLFJの名物だが、テーマが“オリジン”ならば当然主役級。地中海沿岸の伝統楽器がエキゾティックな雰囲気を醸し出すカンティクム・ノーヴム(134231324)の演奏を聴けば、楽器や音楽のオリジンそのものを体感できるし、多言語で歌う女性ア・カペラ・トリオ、レ・イティネラント(124136347)、和太鼓の第一人者・林英哲(226)も見逃せない。
 最後に今年際立つのがサクソフォーンの公演。大らかで愉しいエリプソス四重奏団(124125233)、ウィーン・フィルと共演した同楽器初のソリスト、ヴァランティーヌ・ミショー(124147223246)と、個性派が揃う。
 “オリジン”は多様ゆえに楽しみ方も幅広い。

柴田克彦(音楽評論家)