2025年のラ・フォル・ジュルネ(LFJ)は、音楽の発展に多大な貢献をした都市とその時代にスポットライトを当てます。
音楽史が、一時期に文化・創造の中心地となった幾つかの大都市を軸に形成されてきたことは、まぎれもない事実です。これら、世界を明るく照らす灯台のような都(みやこ)は、ある時代に天才たちを一挙に惹きつけ、芸術・音楽の要地となり、その輝かしい影響力によって文明の歴史に消えることのない足跡を残しました。
ヴェネツィアは、1600年から1750年まで、西洋音楽の発展の中心地でした。この時代にヴェネツィアで生まれた新たな音楽形式の幾つかは、のちの西洋音楽に影響を与えることになります。
18世紀前半には、経済的繁栄を謳歌したロンドンが、バロック音楽・前古典派音楽の一大中心地となり、ドイツ、イタリア、フランスをはじめとするヨーロッパ各地の音楽家たちを引き寄せました。なかでもドイツ出身の作曲家ヘンデルは、40年にわたりロンドンの音楽シーンを牽引しました。
18世紀半ばに楽都として台頭したウィーンは、ハイドンとモーツァルトが古典派の黄金期を築くと、西洋クラシック音楽の真の拠点となります。古典派からロマン派の時代への転換期には、人生の大半をウィーンで過ごしたベートーヴェンが主役となり、そしてその後もウィーンは20世紀初頭まで百花繚乱の楽壇を誇りました。
19・20世紀の転換期には、世界中の優れたアーティストたちが集結した“光の都”ことパリが、西洋クラシック音楽史の主要な舞台となります。パリ万国博覧会が開かれた際には、ドビュッシーらフランスの作曲家たちはもとより、マーラー、リムスキー=コルサコフ、といった当時の音楽界のそうそうたる顔ぶれが次々に会場を訪れました。この時代のパリは、とりわけ勉学や演奏/創作活動のために隣国スペインから訪れた音楽家たちにインスピレーションを与えたのです。
いっぽう大西洋の向こうでは、20世紀にニューヨークが世界の音楽シーンの“震源地”の一つとなりました。今日に至るまで数々のジャズ・ミュージシャンを世界に送り出してきたニューヨークはミュージカル発祥の地でもあり、驚くべき懐の深さで、つねに限りなく多様な音楽スタイルを受け入れてきました。
その他、サンクトペテルブルク、ライプツィヒ、プラハ、ブダペストにもスポットを当てます。
ルネ・マルタン
LFJアーティスティック・ディレクター
「Mémoires(メモワール) ――音楽の時空旅行」のテーマビジュアルは、浮世絵イラストレーターのNAGA氏が手掛ける日本版オリジナルイラストです。今回のビジュアルのポイントについて、本人からコメントを寄せていただきました。
この度、キービジュアルの制作を担当させていただきました、浮世絵イラストレーターのNAGAです。
今年のテーマが「音楽の時空旅行」と聞いた時に浮世絵でどうやって表現しようかとても悩みました。
時空旅行…浪漫を感じるなぁ。西洋音楽が江戸人達に受け入れられ、庶民が演奏する様になりその江戸時代の頃の音楽がボトルメールのように時代を越えて海を渡り何百年ぶりかに現代で聴けたら浪漫感じるだろうなぁと、妄想しながらストーリーを考えて絵を描きました。
もし江戸時代にラ・フォル・ジュルネがすでに開催されていて、その時の演奏が聴けたらなぁと妄想して楽しんでもらえたら嬉しいです。
NAGA(イラストレーター)
25歳の時に銭湯で働き始めたことをきっかけに、日本の伝統的文化、特に江戸時代に興味を持ち始め自身の好きなストリートカルチャーと浮世絵をMIXさせた作品を描き始める。
独特の感性で丹念に描き上げる作品の数々には、NAGAのカルチャー愛と江戸愛が融合したユニークな世界観が発揮されている。
Web:
naga-uraedo.com
Instagram:
@naga0708