ラ・フォル・ジュルネ(LFJ)東京ならではの特徴といえばオーケストラの充実だ。今年も、初日から順に、セントラル愛知響、神奈川フィル、シエナ・ウィンド、杭州フィル、群馬響、横浜シンフォニエッタ、東京シティ・フィル、東京フィルと多彩な楽団が登場するので、これらを追いかけるのも、普段聞く機会のない団体に触れるのも大きな楽しみとなる。
ここで協奏曲に絞るのも一興だろう。筆者がLFJナントで感銘を受けた奏者だけでも、ドミトリー・マスレエフ(p)が弾くラフマニノフのピアノ協奏曲第3番(112)とサン=サーンスのピアノ協奏曲第2番(313)、リヤ・ペトロヴァ(vn)が弾くメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲(113)、レミ・ジュニエ(p)が弾くファリャの「スペインの夜の庭」とラファエル・フイヤートル(g)が弾くロドリーゴの「アランフェス協奏曲」(212)、フランソワ=フレデリック・ギィ(p)が弾くベートーヴェンの「皇帝」と「合唱幻想曲」(214)、アリエル・ベック(p)が弾くラヴェルのピアノ協奏曲(312)など、多様な名曲を味わえる上に、様々な楽団の演奏と、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ウィーンの各テーマ都市を網羅することができる。
他では、人気の小林愛実とダヴィッド・カドゥシュのソロでシューマン夫妻のピアノ協奏曲を続けて生体験できる公演(314)が貴重だ。
協奏曲で見落とせないのがヴェネツィアの代表格ヴィヴァルディの「四季」。ベテランのオリヴィエ・シャルリエ(vn)による正攻法の演奏(222)、フランスの気鋭ルカ・ファウリーシ(vn)が各地の「四季」をピックアップする〈四季世界一周〉(237、323)、渋さ知らズオーケストラ(126)によるフォルな「四季」他、異なるスタイルの聴き比べが興趣をそそる。
またオーケストラでは、触れる機会の稀な杭州フィルによる古典派の名作交響曲(122、123)、“古楽の雄”鈴木秀美の指揮者としてのLFJ初登場(213、214)にも熱視線が注がれる。
室内楽では、ベートーヴェン弾きとして名高いギィと、フランスの伝統を継承するシャルリエの両実力者が中心的存在。特にシャルリエは、ナントでも好演を展開した「クロイツェル」ソナタ(135)や、ショーソンの変則編成曲「コンセール」(224)、阪田知樹(p)(343)とルイ・ロッド(vc)とのデュオ(345)など多様な形態を満喫させる。
俊英組では、ピアノのマスレエフとベック、ヴァイオリンのペトロヴァに注目。前記の協奏曲のほか、2015年チャイコフスキー・コンクールの優勝者マスレエフはリサイタル(235)とデュオ(325)でロシアン・ピアニズムの美点を披露し、今年16歳の天才ベックもリサイタル(234)で逸材ぶりを発揮する。また両者やファウリーシ等が出演する<ルネ・マルタンのル・ク・ド・クール~ハート直撃コンサート>(124)で、俊才をまとめて知るのも妙味十分だ。
もう一人、ナントでも魅せたパリ在住の佐伯牧里南(p)が久々に登場し、ソロ(244)やアイディアに溢れたアコーディオンとの<パリの東風>(143、346)を聴かせるので、この機会に触れてみたい。
ピアノではジャズのポール・レイと壷阪健登の出演もLFJの良き特徴。レイがトリオ版(137、315)、壷阪が管弦楽版(311)で聴かせる「ラプソディ・イン・ブルー」や、ナントでセンスの良さをみせたデュオ(236)は、特に興味深い。
加えて、ジャズではトップ奏者が出演するビッグバンド(215)も楽しみだし、愉しさ満載のサクソフォン・グループ、エリプソス四重奏団(134、231、315)、楽曲構成と透明感のあるサウンドが耳新しいアンサンブル・レザパッシュ!(136、225)その他バラエティに富んだ公演が目白押し。今年も目移りせずにはおれない。
柴田克彦(音楽評論家)