LFJ TOKYO2025 アンバサダー
市川紗椰さんインタビュー

市川さんは NHK FMの「× (かける)クラシック」でもサックスの上野耕平さんと一緒に司会をなさっています。クラシックも詳しいと伺いましたが、クラシック音楽との出会いはどんな形でしたか?

市川:両親ともに楽器を演奏していて、兄もヴァイオリンを習っていました。実は、その兄がヴァイオリンをやめることになって、その楽器が私のところにまわって来るという形で、ヴァイオリンを高校生ぐらいまでずっと習っていたのです。

かなり本格的になさったのですね。当時、お好きだった曲や作曲家はいましたか?

バルトークの「ルーマニア民俗舞曲」を習ったことがあって、そうした民俗音楽的なリズム、特に舞曲のリズムなどが好きだったことをよく覚えています。それから「チャールダシュ」を弾くのが好きでしたね。

ラ・フォル・ジュルネに参加されるのは今回が初めてで、ナントに取材に行かれたと伺いました。ナントでのラ・フォル・ジュルネを体験して、印象的だったことはなにかありますか?

コンサートにいらっしゃる皆さんがとてもカジュアルに音楽を楽しんでいるように思えました。例えば、ラヴェルの「ボレロ」が演奏されたあと、コンサート会場から出て来る時に、その「ボレロ」のメロディを口ずさんで楽しそうに歩いていらっしゃる姿が特に印象的でした。音楽が身近に、自然に、暮らしのなかに根付いていて、それがラ・フォル・ジュルネ全体に広がっているような雰囲気が素晴らしかったです。クラシックだからこうしなくてはいけない、という感じではなく、音楽が好きで、それを楽しもうという気持ちがよく感じられましたね。

いろいろとコンサートを聴かれたと思いますが、その中でこれは良かったな〜と思ったものを教えて下さい。

2日半の滞在で、隙あればコンサートを聴きに行きました。会場の中央にあるキオスクでも音楽を聴きましたし、たぶん10以上は行ったと思います。その中では<ヤノーシュカ・アンサンブル(JANOSKA ENSEMBLE)>が好きでした(※1)。実は昨年に知って、CDをたくさん聴いていたので、それを生で聴くことが出来たことも嬉しかったです。アンコールではエディット・ピアフの曲を演奏したのですが、そこでは客席の聴衆にスマートフォンの電源を入れて、そのディスプレイの光をキラキラさせながら一緒に歌おう的な、とても一体感のある<フェス>らしい演出も楽しかったですね。

個性的なグループですよね。

その他では、ピアノのアリエル・ベック(※2)です。とても柔らかいタッチなのですが、そこから生まれる音色が今まであまり聴いたことがなく、彼女の音に集中してしまいました。録音も知っていたのですが、それを生で聴くことが出来たのが嬉しかったです。

今年の「ラ・フォル・ジュルネ」のテーマは「メモワール」で、都市とその都市を彩った様々な時代の音楽と言えると思うのですが、そのテーマに沿ったコンサートで、なにか記憶に残ったものはありましたか?

「ラプソディ・イン・ブルー」はいろいろなスタイルで演奏されたのです、その聴き較べも面白かったですし、弦楽四重奏を中心に、それと様々な楽器の組み合わせで<世界一周>をするというコンセプトのコンサート(※3)も楽しかったです。誰もが知っているような作品を次から次へ取り上げる、ありそうでないコンサートですよね。しかもヴァイオリンを演奏する姿もかっこ良い、楽しいコンサートでした。

ジャズ好きとしてはポール・レイ(ジャズ・ピアノ)も気になっているのですが、お聴きになりました?

はい。ジャズ的でとても素敵な演奏でしたが、オーケストラと共演した時に、自分が弾いていない時の待機の姿がちょっと普通の雰囲気とは違う感じで面白かったです。

東京でのコンサートの中で、特にオススメはありますか?

<四季世界一周>は楽しいと思います。気になるのは<1972年・インドネシア>、そして<チェロ5本で奏でる音楽の時空旅行>ですね。クラシック好きにオススメというだけでなく、ワールドミュージックなども含めて音楽が好きという方にオススメしたいし、私自身も聴いてみたいです。よりクラシック的な見方で言えば、やはりアリエル・ベック、それから134<カルメンと女性たちの交響曲>のエリプソス四重奏団(サックス四重奏)はとても滑らかな音色が素敵で、ぜひ聴いていただきたいです。さらに言えば、112<大ピアニスト=大作曲家による巨大なる摩天楼>でしょうか?334<パリのスペイン人>は休日の午後に聴くギターの音色が素敵だろうなと思います。いくつもあって、重なって来るので、悩ましいですね。

さて、いくつものコンサートをはしごして聴く楽しみ方が出来るのもラ・フォル・ジュルネの魅力ですが、市川さんが東京のラ・フォル・ジュルネを丸1日楽しむとしたら、どんなプランを作りますか?

例えば5月4日(日・祝)だったら、231(エリプソス四重奏団)からスタートして、212で「アランフエス協奏曲」を聴き、234のアリエル・ベック、225の<異端児!〜“アパッシュ”ラヴェルに捧げるスキャンダラスな演奏会>に行って、最後は226の<今年も登場!太鼓一閃。パリに生きた日本人画家を描く傑作>、あるいは237<四季世界一周>というコースはいかがでしょう?かなり充実したプログラムでお腹一杯になりそうです。また、迷う、というのも楽しいかもしれませんよね。

他にも、マスタークラス、講演会、キオスクでの演奏もあって、本当に息が抜けません(笑)。個人的には、まったく内容が分からない、あるいは分かりにくいコンサートをわざと選んで行くという手もありまして、236のジャズ・ピアニストふたりのコンサートもおそらく当日、行ってみないと分からないコンサートで、楽しみです。

体力と気力も必要になりますので、あまり無理せず(笑)、自由に気軽に楽しんで欲しいと思います。

ありがとうございました。

聞き手/片桐卓也=音楽ライター
Photo by Sotaro Goto

※1:今回の「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO」には残念ながら不参加。
※2:TOKYOでは、234312335に出演
※3:TOKYOでは、237323の<四季世界一周>